遭難したかも!

update 2005.8/6

山で迷って帰れなくなった

  野外で調査をしてたら誰しも1度か2度くらいは怖い思いをしたことがあるのではないでしょうか。私は冬のフィールドで道に迷って帰れなくなったことがあります。

  私は学生の時から四国四万十帯で調査してましたが、海岸付近の調査は冬がベストシーズンでした。なにせ北風が吹く頃は、天気がよく、波がなく、草や虫もなく、いくら歩いても汗をかかないからです。夏はその逆で、高波は恐ろしいわ、ちょっと山の中に入ると蒸し蒸しするわ、蚊はさすわ、海辺は日射がきついわ、大雨降るわで、やれやれです。ただし夏は日が長く、冬は暮れるのが早いです。でもちょっとの違いが大違いなのでした。

  大学院生だった私は、その日は海岸線沿い軽ーくでサンプリングする予定でした。だからいつもなら持っていたアメやライターやレインコートも持ってませんでした。昼の弁当と水筒と調査用具だけでした。この、その日に限ってというところが、いかにもって話ですね。

道がない。でも日は暮れる

  その日は引き潮の間に海の断崖べりをずーっと調査して、潮が満ちてきたら崖の上の道で帰る予定でした。海岸線の行き着いた所から戻れる道が地形図にはちゃーんとあるから、なーんの心配もしてませんでした。で、朝から着々と調査して、弁当も食べて、そとそろ帰るか、と思ったのが午後4時後ごろでした。そして予定通り帰りの山道を歩き始めたのでした。

  ところがしばらく行くと倒木やら、枯れ枝やらがひどく覆っていて歩きにくいこと。どうも最近まったく使われてない道のようです。

  ん? これでも道か?? 間違えたかな? やっぱいいかも。荒れた道だなあ。いや、やっぱ違うのか? どこで間違えたかな。もうちょっと行ったらちゃんとした道が出てくるかも、、、  うーん。引き返してたら日が暮れるなあ、、 なんか違うなあ。おーい道どこだー! これは山道じゃないぞ。ただの山の中だ。いかんいかん。こんな時は地図を、、、 うーん。正しそうだなあ。どうして道がないのかなあ。やっぱおかしい。これはおかしい。どうやら迷ったな、こりゃ。

  ちーっ、まいったなあ。えーっと完全に道に迷った時はどうするのか。うん、そうだ。高い方に行くんだ。山頂は1ヶ所しかないし、たいてい道が通っているからな。そうだ高い方に行こう。何かの本に書いてあったな。それに低いほうに降りて行っても海岸は断崖絶壁だから危ないぞ。そうだ海の方向は危険だ。落ちたら迷子どころの騒ぎじゃないぞ。あぶない、あぶない。行くなら高い方だ。どんどん行こう。高い方だ。あああ、だんだん日がかげってきたなあ。急がなきゃ。早く行かなきゃ。ヤブでも野バラでも関係ないぞ。どんどん進めー。そりゃ急げ。うおーなんじゃこりゃあ。シダと野バラの海のようだ。よいしょっと。すごいな。これは。足が完全に宙に浮いてるじゃないか。シダの上を歩いてる。ふわふわ。ふわふわ。これを突っ切って行くのかあ? でも急がないと暗くなるぞー。

判断ミス

  あーあ。とうとう日が暮れちまった。どうすんのよ。ライトもなーんも持ってないのに。ライターや非常食をたまたま持ってない日に限ってこんなことになるなんて。まるで何かの遭難体験記みたいじゃん。

  さて、こういう時にはどうするのか? はい、朝までじっと待つ。それがセオリーですね。えーっっ?! 朝まで待つ?! ここで? 今から?! まさか! だってまだ夕方5時半だよ。日の出まで12時間以上あるのに?! ここで待つ?! こんな軽装で1月下旬の山の中で野宿するってーの? バカな! そんなことあり得ないでしょ。寒波が来てたらどーすんの? もしくは雨が降ったらどーすんの? それこそ危険だよ。暖かい日中に合わせた服装だし、予備の上着もレインコートも無いよ。野宿なんてそれこそ危険だ。そうだそうだ! そのとおり! だいたい道さえ見つかれば30−40分で車に戻れるんだよ。車にさえたどり着けば、ふつーにアパートに戻って、飯食って、テレビ見て、風呂入って、「あー、今日は危なかったなあ」なーんて思いながら布団で寝るんだよ。それなのにここで野宿するか?! そうだ。帰ろう! 暗くたって歩けるさ! 這ってでも帰るぞ。断固帰るぞ!

距離感のない暗さ

  これが森の中じゃなくて、高原のような開けた場所だったら星明りもあったでしょう。でも木々が覆い茂った森の中では、まるで暗室のような暗さでした。真上には黒い木々の隙間から灰色の空だけがかすかに見えます。それも月も星もない曇空。黒い枝はシルエットとして見えますが、それがはるかに遠い影なのか、目の前の影なのかも判断つきません。距離感の無い暗さ。

  まいったなあ、真っ暗だ。自分の手すら見えない。これじゃいくら山頂に着いても山道がわからないぞ。こんなに真っ暗だと偶然山道に出会っても、ただの段差なのか区別つかない。ずーっとつながっているかどうかなんて手探りじゃわかるわけないじゃないか。それってつまり山頂に行っても帰れないことか。これは困った。どうすべきかなあ、、、、、、、、

  あ、ここって谷だな。水は枯れているけど。お! ずっと下のほうに水の音がするなあ。川だあ。下のほうで川になるんだ。でも、待てよ。海岸線に川は出てなかったな。こんな水音がする川はは、ふもとの集落につながってるんじゃないか? そうだ。きっとつながってる。つながっているに違いない! これにつたって歩けば、集落に出られる。これで帰れる。きっと帰れる。よし。ゆっくりと。慎重に。いくぞ。下りて行こう。よいしょっと。沢は、上りより下りが、ずっとあぶないけれど、ゆっくり下りれば、きっと大丈夫。なあに大丈夫さ。一歩、一歩慎重に、、、、、

あっっっっ!

あっさり転んで、気づいた時には胸は地面に当たり、頭は下を向き、サンプルが入ったままのリュックは頭のとこまでせり上がり、ぶら下がった状態でした。ふと手を伸ばすとペタッと大きな石が手に触れて、初めて恐ろしいということに気がつきました。石はひんやりしてました。

  これは危ない、、、、マジで危険だ。これは下れない。登るべきか、、、、、どうしたものか、、、 とりあえずどこか休めるところで。 、、、、少し落ち着いて考えよう。どうしたものか、、、 

  ああ、疲れたなあ。何時くらいかなあ。11時半くらいかな。腕時計はちゃんと見えないけど、、助けが来ないかな。来ないだろうな。ケータイもないし(あっても圏外だが)。はるか向こうに明かりが見えるな。あそこまで行けば助かるのに。何か奇跡が起きないだろうか、、信じられないような何か、、、、  

 私はこんなにも必死なのに自然はなんて無関心なんだ

  あっ! 寝てた。一瞬うとうとしてた。そうか。この程度しか冷え込んでないな。そうか! 真冬だけど、これならたいしたことない! 四国の海沿いだし。どこかで朝を待とう。これはかなり現実的なプランだ。寒いといってもしのげる場所さえあれば、きっと朝を待てる。ここは風が吹いてるけど、もう少しましな場所ならきっと大丈夫だ。移動しよう。もう少し上にクマザサが茂っていたな。あそこに行こう。あそこで風をしのごう。

  表面はびっちりクマザサの葉が茂る斜面。その中に潜ると広い空間があり、体を丸めるめました。腐葉土の地面もさることながら、とにかく風が冷たく、手袋をした手で顔を覆って寝転んでいました。時折強い風が吹くと冷え込むが、我慢できないレベルではなく、静かに朝を待つことにしました。明け方冷え込んだり、雨や雪が降ったりしたら、このまま死んでしまうんじゃないかと想像してみましたが、自分が死んで失われてしまうということだけは、この期に及んでも断じて受け入れられませんでした。ただ早くこの事態が打開されてほしい。それだけでした。

そして朝!

  ふと気づくと薄明が始まってました。空は黒くなくなり、足元も周囲もかすかに見え初めてます。夕べのことがあるので、歩き出すのを躊躇しましたが、もはやじっとしてられず、歩き始めました。

  今度は上へ上へ。山頂へ行けば道が、、、 もはや暗くない。見える。足元が見えるぞ。 あ、、これは道か? つながっているような、、、 そうだ。きっと道だ。どこにつながっているんだ? 下っていけるのか? どんどん下りて行くのか? 行けそうか? いいぞ。このまま行ければ、、、 行ける。 行ける。 この調子なら。ふもとまできっとつながってる。きれいな山道になってきたぞ。普段から使われてる道だ。帰れるぞ。いやいやちゃんと車にたどり着くまでは気を緩めないぞ。ああ、でもきっと大丈夫だ。走りたいくらいだ。あ、見えた。着いた! ふもとだ! 帰ってきた!

  ちょうど海の向こうから日が昇り、雲間から日が差しました。よっしゃあああ!!

じゃあ次は朝まで待つのか

  「夜の山中を動いてはいけない」という言葉の意味を深く理解しました。あの日は月明かりも懐中電灯もなかったので、じっと待つのが最も正解だったでしょう。冷え込むかも!という焦りが判断ミスを起こさせたのです。

  あれからだいぶ月日が経ちましたが、幸いなことに、その後同様のトラブルに見舞われてはいません。しかしこれからだって道に迷うくらいのことはあるでしょう。荒れた山道は多いですから。そしてそのまま夜になってしまうことも無いとは言いきれないでしょう。

「じゃあ次はおとなしく朝まで待つのですね?」 と聞かれたら

  でも、あれから年月が過ぎて、正直なところを言うと、あんな目に遭ったにかかわらず、必ずしもそうではないように思っています。だから 「それは場合による」 というのが今の私の答えです。

  つまりですね、状況によっては歩く方がいいかもしれないと思うのです。あの日は曇りで朝の冷え込みはそれほどではありませんでしたし、雨も降りませんでした。ある意味ラッキーでした。でも逆に晴れてて月明かりがあったらすんなり帰れたかもしれません。雨が降ってずぶぬれになったり、放射冷却で急激に気温が下がる事だってあるでしょう。場合によっては懐中電灯の光を頼りに歩いて帰る方がいいことだってあるかもしれない、と思うのです。どうするかはケースバイケースではないでしょうか。

  そして最大のポイントは、あの時冷静な判断ができなかったことが、最もダメな点だったと思います。あの時、あの装備なら動くべきではありませんでした。そして装備の無さがまた判断ミスを誘って、事態をいっそう悪くしたのです。

  今は、リュックにライトと非常食とライターを必ず入れてます。重かったり、かさばったりするとめんどーになるので最小限度で負担にならない物を入れっぱなしにしてます。ちょっとは困った事態に対応できるように。ついつい甘いささやきに乗ってしまわぬように。

四万十帯に便利

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