チェルンプ断層が動いて滝ができた。1999年台湾中部地震。
左の岩盤が右側にのし上げて、中学校のグラウンドに段差ができた。
■ そもそも「断層」って??
そもそも断層とは何でしょう? 定義では「地層の不連続面で、面に平行な変位があるもの」となります。「不連続面」とは、つながっていない、切れている、ということです。次に「面に平行な変位がある」とは、食い違っている、ずれている、という意味です。
たとえ地層の切れ目があっても、パカッて開いているだけで、ずれがないものは断層ではありません。また地層にずれがあっても褶曲しているだけでのものも断層ではありません。
ところで、この定義には地震を起こすといった文言が入っていません。地震の有無と断層は別の問題なのです。例えば海底に堆積している未固結のブヨブヨの泥や砂の地層が、ちょっとだけすべっても食い違いのある不連続面ができるでしょう。このときにごく微小な地震波が放出されたかどうか?? それを問うことなく広い意味での断層なのです。
ビーチの砂層を足でずらす。はい、断層のできあがり。もちろん地震とは関係ありません。
■ 地震を起こす断層
断層と地震がイコールでないことはわかりました。たとえばビーチで砂の層がずれていても、それは広い意味で「断層」です。しかしそれは地震とは関係ありません。
しかし逆に地震があった時には、どこかで必ず断層が動いた、ということは言えます。グラグラって来たら「だ、断層が動いたああ」と思うのは正しいです。特に大きな地震では、地表の建物や道路や田畑がズバッと切って段差でできていることがあります。
たとえば最近では1995年の阪神大震災の野島断層、1999年の台湾中部地震のチェルンプ断層、2011年の東日本大震災に伴って動いた断層などが挙げられます。では、日常的に起きているもっと小さな地震でも断層が動いているのでしょうか。よくよく調べたら道路や建物もほんの数ミリ変位しているでしょうか?
いや、そんなの見たことがありません。ぐらっとするたびに、水道管や地下鉄が切断されたりしません。そう、小さな地震の場合は、地下深部での断層の変位が小さく、ズレは地表に届きません。その前に岩盤の緩やかな歪みに拡散して消え失せてしまうのです。地表面を切るような断層は、特別大きな地震の時しか現れないのです(おおむねマグニチュード6.8以上)。
一方で、地表に顔を出さない断層が地震被害をもたらすこともありますが、少なくとも顔を出しているものは、より危険だということです)。このように大きな地震の時に地表までズバッと切る断層を 「地震断層」もしくは「地表地震断層」と呼びます。
ところで、私たちの暮らす地表というのは、軟らかい表土で覆われています。地表地震断層は、この軟らかい表土を切っていますが、あの強烈な地震波がこの軟らかい表土から生み出されるわけじゃありません。実はもっと地下深部の強固な岩盤が破壊して、強い地震波が放出されているのです。 この地下深部にあって、まさに地震を起こしている断層を 「震源断層」と呼びます。
地表地震断層は震源断層の延長で、地表に顔を出したものです。地震の本体で震源断層をナマズと例えると、地表地震断層はナマズの尻尾、もしくは影のようなものです。
そして地表地震断層のなかでも、ここ最近動いたことがある、前科がある奴のことを「活断層」と呼びます。
地震が起きても、震源が深ければ地表に断層は顔を出しません。たとえ地表に顔を出していても、最近の地層を地層を切っていなければ、古い死んだ断層。
■ ここ最近の前科とは
単に前科があるものというと、過去に地震を起こしたことがあるもの全てを指しますが、ポイントは“ここ最近”活動したかどうかがです。日本列島の地殻にはすでに断層がたくさん入っています。その全体に対してプレートがグイグイと押してきます。その結果、押す力に対して、すべりやすい向きの断層が動きます。不適な向きのものは動きません。これが活断層とそうでない断層の分岐点です。
しかも地質時代の間にはプレートの沈み込みの方向も変化し、断層を取り巻く状況もどんどん変化してしまいます。断層にかかる力の向きや大きさも次第に変化していきます。このため、ある断層がある特徴の地震を起こし続けるのは、長い地質時間の中ではごく限られた期間だけに限られてしまいます。その期間は、もちろん場所によるでしょう。
古くは第四紀(地質年代区分で256万年以降)を対象としていましたが、最近ではもう少し絞り込んで、後期更新世(第四紀は完新世と更新世に細分されます)、約12.6万年以降に活動したものとされています。これ以降に動いた断層は今後も動くだろう、と一般に考えます。
いずれにしても「最近動いた断層は今後も動く」というのがエッセンスです。
この「最近」とはいつになのか、という数値は重要ですが、それもあくまでも目安であることに注意すべきです。ギリギリセーフだった場合に、胸張って安全宣言されても困ります。
数字そのものよりも、将来のリスクを評価するという本来の趣旨に沿って考えるべきでしょう。ある程度のリスクを許容できるものと、それが許されないものがあります。たとえば、道路はとても長いので、活断層を避けて建設するなんて不可能です。活断層と交差しても、やむなしと言わざるを得ません。一方で原子炉のような重要な構造物は、活断層の上には建てません。それが現在の考え方です。
■ 活断層はなぜ危険なのか?
活断層はなぜ危険かと問われれば、下記の二点に集約されます。
1.震源が浅く、かつ規模の大きな地震を起こす。
2.それは将来においても繰り返す。
だから危険なのです。
ところで震源が深すぎたり、変位が小さい場合は、地表地震断層は現れません。と、いうことはギリギリで顔を出さずに、潜伏している断層があるかもしれません。そんな断層は、かなり大きな地震を起こすにもかかわらず、活断層調査の網にはかかりません。
そのため、活断層がみつかっていない場所だって危ないかもしれない、という考えも成り立ちます。しかしだからといって、どこでも危ない、どこでも一緒、というのは間違いです。
幅広いエリアがグレーかもしれません。しかし活断層と認定されている場所は、間違いなく危ないです。ブラックです。真っ黒です。ここが重要です。
なお全国の活断層の詳細な調査結果は下記にて公表されています。ぜひ、参考にしてください。