見事に活断層を掘り当てたトレンチ壁面。中央の黒い地層の食い違いがよくわかる。産総研による菊川断層トレンチにて。

Q.どうやって調査するの?
A.掘ります。

■ 活断層を掘る

 地形調査から活断層と思われるリニアメントが特定できれば、次は穴を掘ります。ショベルカーを使い、家一軒入るくらいの大きな穴を掘ります。この穴が溝型なのでトレンチ(溝)法と呼ばれます。

 後期更新世以降の断層活動が重要なので、トレンチで掘れる深さに、その年代の地層が出てこないと困ります。私たちが暮らしている大地は、古い岩盤がしっかりあって、その上に若い地層が覆っています。覆っている地層は場所によっていろいろです。数10万年分の地層が連続的にたまっている所もあれば、岩盤の上に数千年分程度の地層しか覆っていないところや、岩盤がむき出しになって地層が覆っていない所もあります。

 たとえ後期更新世までの地層があったとしても、その深さが深すぎても困ります。トレンチ法ではそんなに深く掘れないので、数mくらいで出て欲しいです。ちょうど良い厚さで、ちょうど良い年代までの地層が連続的にたまっていて欲しいのです。そのうえ地主さんの許可が得られる場所となると。。。簡単ではないでしょう。

 トレンチ法は溝型の穴を掘って、表面のショベルカーの削り跡をきれいに洗います。こうすると地層がきれいに浮かび上がります。そこに縦横1mおきに紐を張って、格子をつくってスケッチをします。

 「スケッチ? 写真じゃなくて?」と思うかもしれません。もちろん写真も撮りますがスケッチは欠かせません。このスケッチというのは、微妙な地層の特徴、断層による地層や礫の引きずり、地震動に伴う液状化・流動化の痕跡、土器や洪水の跡や田畑の跡や火山灰層など観察結果を図で表現します。そのひとつひとつには観察者による判断が入っています。だから人がやる必要があります。機械にはできません。

目の幅くらいの視差なら手に届く範囲くらいがよくわかる。

■ 何がわかるの?

 断層を挟んだ両側の、どの地層と、どの地層が同じか、という組み合わせを丁寧に調べていきます。そうすると断層が、前回はいつ、どれくらい動いたのか、前々回はいつ、どれくらい、前々々回は。。。という活動履歴を追跡できます。

 ここでふと疑問がわきます。地震の時に断層がどーんと動く。地層がずれる。今回どれだけ動いたのかがわかる。

でも、前々回、前々々回は、どうやってわかるの?

■ 断層の履歴がわかる仕組み

 この話のミソは、「堆積物は流れのある場でたまる」という事実です。海底や陸上でも、多くの堆積物は流れのある環境でたまります。雪のように上からしんしんとは積もりません。水に流されながらたまります。

 もしも断層運動によって段差ができたとしましょう。そこに水の流れに乗って堆積物が運搬されると、堆積物は段差の低い所にたくさんたまります。ちょうどトラップされます。そのため段差の高い部分と、低い部分とでは堆積速度(単位時間あたりに堆積物がたまる速度)が違います。低い側に選択的にたまります。ここが雪との違いです。

 しばらくすると段差の低い部分は埋め立てられて、段差はなくなります。こうなると断層の両側で堆積速度は同じになります。つまりどちら側でも、同じ厚さでたまるようになります。そしてしばらくして、次の地震が起きると、再び段差ができて最初の輪に戻ります。

 高い側が一定の速度で安定して堆積しているのに対して、低い側は時々急激な堆積が生じる、という性質を利用することで、断層がいつ、どれくらい動いたのかがわかります。

 

■ 履歴推定法

 トレンチ調査でここ最近の地層と断層がみつかった場合、断層を挟んで、両側の地層を対比させていきます。A層とA’層、B層とB’層、という感じです。

 断層を挟んで両側の地層の厚さがどちらも同じなら、同一層準をつないだ線は平行になっていきます。しかし途中で断層活動があった場合には、段差の低い側の地層は急に厚くなります。

 図のX、Y、Z層がそれです。断層の右側と左側で、それらの層だけが堆積速度が違います。例えばY層に注目すると、C-C'面からG-G’面までは両側の堆積速度は同じです。同一面をつなぐ線が平行になっています。しかしH-H’面で変化します。右側が一時的に厚くたまっています。ここが断層変位があったタイミングです。

 こういった堆積速度が急変する地層をみつけることができれば、そこから地震が起きた年代がわかります。そして一時的に厚くたまった地層の厚さから断層の変位量がわかります。変位量は地震の規模と関係します。

 ところで、この図からもうひとつ重要な特徴が読み取れます。たとえばA-A’面は左右の段差、というか累積変位量が大きいです。一方で上位になると変位量が低下します。I-I’面の累積変位量はほんの少し。A-A’面になるとゼロです。

 古いものほど変位量が大きく、新しいものほど変位量が小さい。これは古いものはたくさんの地震を経験しているので、その分だけ累積変位が大きくなるためです。

 これはトレンチ調査だけでなく、地形でも認められます。たとえば横ずれ断層の場合、尾根や谷といった古くからある地形は断層の累積変位が大きいです。それに対して比較的新しい地形、細い川や人工的な道や柵や田畑の変位は小さくなります。

 

■ まとめ

 トレンチ法による活断層調査は、断層が後期更新世以降に動いたことの確認にとどまりません。断層がいつ、どれだけ動いたのかという履歴を、かなりの確度をもってを知ることができます。それが長期地震予測へとつながっていきます。