■ 地震の周期と活動度
1891年に根尾谷断層が8.0mも動いてMw 7.4の地震が起きました。古藤文次郎博士が世界で初めて地震と断層の関係を論じた歴史的な地震です。巨大なトレンチ断面を見学できる根尾谷断層観察館が建っています。ぜひ見に行きましょう。
伊豆半島のつけねに丹那断層があります。昭和初期に東海道線のトンネル工事でこの断層が貫かれました。これが難工事で、断層帯で堀あぐねていた、まさにその時に北伊豆地震(1930年 Mw6.9)が発生してしまいます。ちょうど切羽が断層帯だったので、切刃の壁が2.4m動いたということです。吉村 昭さん著の「闇を裂く道」に詳細が載っています。
これら2つの断層は、地震と断層活動が同時に観察された貴重な例になります。
■ 平均変位速度
活断層の活動度を示す指標のひとつに「平均変位速度」があります。これは、ある長期間のうちにトータルでどれだけ変位したのかを、1000年あたりの変位量で表します。
この間に何回地震が起きたのかは問いません。ある長い期間中にどれだけ変位したかで評価します。正確な活動履歴がはっきりしていない断層でも使える点が平均変位速度のメリットです。
例えば、根尾谷断層は14,000年間に28m動いています。平均変位速度は2m/1,000年になります。一方の丹那断層は50万年間に1,000mですから、2m/1,000年です。偶然にも両者の平均変位速度は一緒です。
しかし起こす地震の規模はまったく違います。濃尾地震はMw7.4なのに北伊豆地震はMw6.9です。エネルギーでは5倍以上の差があります。
目の幅くらいの視差なら手に届く範囲くらいがよくわかる。
■ レギュラースリップモデル
ところで、根尾谷断層は濃尾地震(1891年)ではいっぺんに8mも動きました。丹那断層は、北伊豆地震(1930年)では2.4m動きました。そして両者の平均変位速度は2m/1,000年でした。
もしも一回の地震で根尾谷断層がいつも8m動くなら、4000年おきに8mの変位を繰り返せば平均変位速度は2m/1,000年になります。また、丹那断層も同様に1000年おきに約2mの変位を繰り返せば平均変位速度は2m/1,000年です。
これは「もしも」同じインターバルで同じ変位を繰り返せば、という仮定の話です。このような規則正しいすべり方をレギュラースリップモデルと呼びます。
実際の断層はそんな単純ではありません。同じインターバルで、同じ変位を規則正しく繰り返しません。きっちり規則正しかったなら、地震予知も簡単にできるのですが。
■ タイムプレディクタブル(時間予測可能)モデル
トレンチ調査などにより活断層の履歴が調査されるようになりましたが、実際の断層はレギュラースリップモデルに沿って活動しないことがわかりました。
かと言って、めちゃくちゃのまちまちというわけでもありません。大きな地震の後は次の地震までの間隔が長く、小さい地震のあとはすぐに次の地震が来る、というパターンが多いです。
縦軸を断層変位量、横軸に時間をとるグラフでは、断層は地震の瞬間に大きく変位します。しかし静穏期には断層は動きません。そして次の地震の時にまた変位します。段差がまちまちな階段状パターンになります。しかし階段パターンの下限は直線につながります。
もしも、この直線の傾きが既知であり、そして前回の断層変位がわかっていれば、静穏期の長さが推定できます。つまり次の地震がいつ起こるのかが予測できるというわけです。
ただしこれは長期的な予測です。数10年以内とか、今世紀半ばには、といったレベルです。それでも都市計画には重要な指針になり得ます。
■ スリッププレディクタブルモデル
これも段差がまちまちな階段状グラフですが、階段の上限が直線でつながります。これだと次にいつ地震が起きるのかはわかりません。今日かもしれませんし、ずっと先かもしれません。
でも静穏期の長さが長いと、大きく変位するという風に、地震の規模を推定できます。それゆえ変位予測可能モデルというわけです。
これはいつ地震が起きるかはわかりません。それは何の役に立つのでしょう。
ところでもしも、ついに直前予知が実現したとしましょう。そして「あと2時間後に地震が来ます」とわかったところで、この校舎を急に頑丈にすることはできません。
でも、「50年以内に来ます」とか「この校舎の寿命のうちにはきません」とかわかれば改築計画上とても有効です。
■ まとめ
活断層の活動周期と変位量には特徴的なパターンがあることがわかりました。それは地震の再来時期や変位量を長期スパンでの予測を可能にするため、都市計画に有効です。
それにしても断層の活動パターンは、なぜ、こんな特徴があるのでしょう。その原因は地下深部の震源にあります。地下深部で何が起きているのでしょう? 次からは岩石の力学について説明します。