■ いろいろな強さ
ダイヤモンドは最も硬い材料です。地学のモース硬度計でいえば最高硬度です。これは相手の物質を削れるという強さです。ダイヤモンドはあらゆるものを削ることができるので、工業的に広く利用されています。その一方で、ダイヤモンドをハンマー叩くと粉々に割れてしまいます。叩いたときの力に耐える靭性(じんせい)という強さが足りないのです。
プラスチック定規に力をかけると簡単に曲がります。そして手を放すと元に戻ります。この曲がりやすさは弾性率という強さです。プラスチック定規を更に曲げると、一部が白くなってしまいます。もはや手を放しても元に戻りません。まともな定規として使えません。この戻らなくなるレベルを降伏強度と呼びます。そして、それをも超えて、もっと力をかけていくと、ついに限界に達してバキッと折れてしまいます。この折れる直前の力のレベルが破壊強度です。この時の力の大きさで表されます。
このようにモース硬度、靭性、弾性率、降伏強度、破壊強度など、そのほかも含めて、物質にはいろいろな強さがあります。単に「強い」「弱い」ではなく、それは何強度なのかを考えるといろいろ理解が深まります。
■ 外力と応力
物体に力を加えたとします。このとき外からかかる力を「外力」(Applied force)と呼びます。そして物体が取り得るレスポンスは(1)はじき飛ばされる、(2)へこむ、の2つのみです。例えば皆さんが廊下を歩く場合、床を踏む足の力が外力です。床に穴が空いて床板が飛んでいくと困ります。実際には床が歪みます。たとえコンクリートのビルでも、ほんのわずかに歪みます。 そして床は、皆さんの足を押し返してくれます。それも外力に対して、まったく正反対の向きに、まったく同じ大きさで正確に押し返してくれます。これを瞬時にやってくれます。だから皆さんが廊下を走っても転ばないし、また床も踏み抜かないのです。
誰がこんな事をやってくれるのか不思議に思います。あらゆる材料は原子でできており、原子同士はいわば電気的なバネによって接続されています。このバネによって、外力に対して物体内部から押し返してくれるのです。 この物体内部から押し返す力を応力(Stress)と呼びます。
応力の大きさはパスカル(Pa)で表されます。1パスカルは、1平方メートル四方の面積に1ニュートンの力がかかっている状態が1パスカルです(1Pa = 1N/m2)。つまり面積に対する力の大きさです。ちなみに1ニュートンとは、質量1kgの物体を1m/秒だけ加速させるのに必要な力です。 そして応力には2種類あります。ひとつは面に対して垂直な向きの垂直応力。もうひとつが面に対して平行な剪断応力です。特に剪断応力は、断層などのすべらす力そのものです。この2つの応力の合力として、いわゆる応力になります。
■ 剪断応力と固体の定義
この授業では固体を対象とします。ところで固体とはなんでしょう。液体や気体などの流体と、硬い岩石は全く違うので迷いません。しかし未固結堆積物など、やわらかい物はどこからが固体なのでしょう。その境界線がどこにあるかは大事です。 固体の定義にはいくつかありますが、力学的には「静的状態で剪断応力が生じるもの」となります。それってどういう事でしょう。 流体を例に考えてみましょう。
たとえば水と空気が入った注射器があるとします。注射器の先端は蓋がしてあり、密閉されています。ピストンを押し下げると空気が圧縮され、液面に垂直応力が生じます。垂直応力は固体でも流体にでも、どちらにも生じます。次に水面を考えてみます。水面を剪断させようとしても、水中から剪断に対抗する応力は生じません。水のような液体や空気のような気体、つまり流体には剪断応力が生じません。剪断応力が生じるのは固体だけ、というわけです。たとえ含水率の高い未固結堆積物であっても、わずかでも剪断応力が生じるものは固体というわけです。 ちなみに、ここでいう静的とは、動的ではないという意味で、止まっている状態です。例えば水や空気が流れている状態なら、遅い流れと速い流れの境界には剪断応力が生じます。しかし静止した状態では生じません。
■ ところで
ところで、「ストレスがたまった」とか「周囲からのストレスがつらい」みたいな表現があります。ストレス(応力)は力の大きさなのでたまりません。また、力学では外部からかかる力は外力で、ストレスは内部から対抗する力です。もしも何かつらい事があるなら外力をなんとかすべきでしょう。また、似たような表現として「ストレス太り」も耳にしますが、やはり太ったり、もしくは痩せたりするのは外力が原因ではないでしょうか。 ちょっとストレスを擁護してみました。